黒の試走車
時間的余裕ができたので録画していたものを、ぼちぼち観賞。
この映画のテーマ自体はわかりやすく、組織の犬になって人間性を失うことへの批判。
この映画の風刺を効かせているところは、一般的な物語では明るい夢として描かれるスポーツカー開発と販売のプロジェクトを、凄惨な産業スパイ合戦として描いていること。クライマックスの乱闘が新型スポーツカーのポスターの前で行われ、その結果の死者を会社の看板が見下ろすような構図で写されているくだりでは特に明確。
さらにこの映画が単なる説教臭い映画でないところは、お互い知恵をつくしたスパイ戦術競争や、二段、三段と仕掛けられた敵スパイの配置を暴いていく、攻防ストーリー。高松英郎演じる小野田部長率いる開発企画一課がかなりヤクザな方法を使ってスパイをしていても、その戦術の面白みや、より悪辣で狡猾な敵側の存在などでピカレスク的に面白い。
ただ小野田が最期には、結果的に人を殺してもまるで良心の呵責を感じないほど悪辣な存在になったと、田宮二郎演じる朝比奈に糾弾されるくだりは、理屈はわかるものの小野田が最初と大きく変わったような印象が弱く、最初の頃には非常の手段としていた事が、相手の悪辣さに応戦するうちにどんどんエスカレートしていき最期に到るというように、落差をもっと明確にしていればと思えるのが物足りず。
叶順子演じる昌子の、朝比奈に対する冷ややかとも達観とも取れる「馬鹿な男だね」というような眼差しも印象的。
- 出版社/メーカー: 大映
- 発売日: 1999/08/06
- メディア: VHS
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