モンテ・クリスト伯 第六巻、第七巻(完結)

 読了
 ダンデスがモンテ・クリスト伯爵を名乗って現れた第三巻あたりからは、ゆったりしたペースで進行していましたが、5巻後半からは怒涛の展開。
 伯爵の苦悩ぶりが克明に描かれている。ついに復讐の実行段階に入るが、第一ターゲットのモルセールへの復讐にスキャンダルを暴露して息子のアルベールを殺すために挑発して決闘を受けさせるが、かつての恋人であるメルセデスに懇願されアルベールを殺せる心境でなくなる。そして一度は捨て鉢でアルベールに殺されてやろうと思うが、娘のようなエデを残すことを考えて苦悩。
 結局モルセール家の件は、アルベールの機転と決断で決闘を回避し、アルベールとメルセデスはモルセールを見放して家を離れ、モルセールの自殺するというこのときは最良に見えた結果に終わる。
 しかし次のヴィルフォールへの復讐は、彼を発狂するまで追い詰めることに成功するが、ヴィルフォールの幼い子供まで死に至らしめたことに再び苦悩。さらにメルセデスにもやはり家庭を破壊した多大な心痛を与えていたことを思い知る。
 そうして、不正への怒りや復讐の権利を求める心境と、自身の復讐による災厄への罪の意識、神の意志をどこにも止めるかなどで葛藤し、それでも復讐真を自ら駆り立てるも、結局最後のダングラールへの復讐は、白髪になるほどの恐怖を与えることのみにとどめる。 そうして復讐を終えた後のラストでは、せめてもの一つの善行を行い旅立つ。
 このあたりの苦悩の克明な描写は、要約版では味わえない。

 前田監督版『巌窟王』との比較
 前田版と決定的に展開が変わるのは、アルベールとの決闘前にメルセデスが命乞いに来た時に、原作ではその命乞いを聞き入れて以後復讐に大きな葛藤などを持つのに対し、アニメ版では命乞いを聞き入れず以後も冷酷非情に執念で徹した事。
 原作で伯爵は、メルセデスの命乞いを聞き入れて復讐を貫徹する意思が崩れた時に「復讐しようと決心したとき、心臓をむしり取っておけばよかったんだ!」と一人叫ぶ。前田版ではおそらくはここを踏まえて「心臓をむしり取ってしまった場合の伯爵」を描いている。事実前田版では心が凍てつき、心臓まで鉱物になっていると明確に描写されている。そうしてアルベールとドラマ上で対峙させている。
 ただ、ドラマとしての面白さは、前田版のアルベールの若さと素直さゆえのひたむきさを主眼にしたものもいいですが、やはり原作の人生の喜びと苦しみの多くを経験し、復讐の是非について激しく葛藤し、エデやマクシミリアンに実の子供のような愛着をもつ伯爵を主眼にしているほうが、ドラマ的にずっと深みがあり面白いです。

モンテ・クリスト伯〈6〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈6〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈7〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈7〉 (岩波文庫)

巌窟王 第1巻 [DVD]

巌窟王 第1巻 [DVD]