クニミツの政 インフルエンザ問題

 先週分についてはこちら。
http://d.hatena.ne.jp/utumi_k/20050104/p2

 ああ、案の定、農薬編のデタラメさが再び、といった展開になっています。
 しかも、結構真に受けている人が、また多そう。

 はてな内で、この問題についてあまり書いている人もいないようですので、僭越ながら、多少なりと、致命的なレベルの問題点を指摘させていただきます。
 詳細に書くには、調べなければならず、時間もかかるので、取り急ぎ、はっきりと問題と指摘できると確信を持てる部分の要旨だけ。
 ちゃんとした医療関係者の方がおられましたら、ぜひとも、クニミツのデタラメさの問題に関しての啓発を、多少なりとしていただけないでしょうか。

  1. 根本的な問題。自説に有利な、攻撃対象のリスクばかり取り上げ、メリットには一切触れない、詭弁的論法。本来なら「薬の使いすぎは危険」と述べるべきはずのところを「薬の使用は全て危険」と言わんばかりのやり方。リスクとメリットを裏返せば、儲け話ばかり強調して、損失の可能性には口をつぐみ、大儲け間違い無しと言う、ペテンまがいの投資勧誘のような手口(そんな漫画もマガジンには連載中ですね)。
  2. 取材相手が、『患者よ、ガンと闘うな』等の著者 近藤誠氏という、偏った人選。近藤氏の諸々の主張を見れば、全く信用できないとまではいえなくても、少なくとも、知見のバランス感覚では問題のある人物である事はわかりそうなもの。
  3. 薬とはそもそも、副作用が当然ある物で(前回ずいぶん不明瞭な統計で、持ち上げていた、漢方でも!)、そのリスクとの兼ね合いを考慮して使う物なのに、「副作用があるから、薬は皆、駄目」といわんばかりの、根本的にわかっていない非現実的な主張。
  4. 現状では諸説あるインフルエンザ脳症の、解熱剤原因説のみとりあげて、他にも妥当性のある説は取り上げないまま、解熱剤のみ原因と決め付け、糾弾まで始める偏向ぶり。インフルエンザ脳症自体の解説も、たとえば、脳に直接インフルエンザウィルスが無い事について、普通なら「二次的な症状(2005/1/24補足:インフルエンザの症状としてサイトカインが生成され、それが体にまわって症状が引き起こされる等いくつかの説)」と解説しているところを、「ウィスルが無いからそれが原因ではない」とするなど、おかしい。
  5. とにかく熱を出して、ある程度は物理的に冷やせば風邪は治ると主張。体の弱い幼児やお年よりの場合、こじらせた場合(肺炎とか)、より質の悪い病気であった場合(結核とか)など、医者と薬の必要なケースには全く触れていない。また、解熱剤を使わず、熱だけでインフルエンザ脳症になったケースにも触れていない(http://www.go.tvm.ne.jp/~taisei/flu-brain.htm 内の http://www.go.tvm.ne.jp/~taisei/flu-suppo.htm)。
  6. 無知によるものか、それとも意図的なのか、医学的には区別されるし対処方法も異なる、一般的な風邪とインフルエンザを混同させた書き方。
  7. インフルエンザを直接治す薬はないと語っているが、オセルタミビルやザナミビル、アマンタジンはどうした?抗生物質も意味がないと語っているが、正確には、こじらせた際の合併症による二次感染などでは必要な場合がある。
  8. 統計を引き合いに出しても、実施者、統計対象と範囲、方法、数字など具体的に挙げず、曖昧に「ワクチンに意味は無い」とだけ結論付ける。こういうやり方は、データとしての信頼性に希薄。その後に、更なる統計では無く、クニミツの個人的な一回の体験だけで、それを補強する詭弁(僕は効いたからインフルエンザワクチンは必ず効くと主張するとの同じぐらい、おかしな論法)。
  9. インフルエンザワクチンが効きにくい具体的な理由(タイプが変化しやすい、感染と発病の形態、健康な青年に一番効きやすく免疫機能の弱い幼児やお年よりには効き難い)や効果(確実完全にかからなくなるわけではない、かかっても症状が軽くすむ、体が弱っていて免疫機能が下がっているとワクチンを摂取してもかかってしまう)について、まるで説明していない。
  10. 外国ではこうしているが、日本ではそれをしていないという論法で、日本の事情を色々と批判をしているが、インフルエンザワクチンについては、海外で摂取が行われている事には、だんまり。
  11. 注釈で、41度までの熱なら問題ないって......41度なら、薬の服作用以前に、かなり危険でしょう。もう1度上がって42度出たら死にますし。インフルエンザ脳症でも、41度で死亡率42%、42度で100%(http://www.go.tvm.ne.jp/~taisei/flu-brain.htm)。そもそも、脳に障害がなくても、他の問題が多々発生しますし。正気の解説ですか?
  12. 余談ながら、この漫画の原作者(作画担当はおそらく違うでしょう)、スペイン風邪とか、その他の、死者多数のインフルエンザの流行例は、ごぞんじないのでしょうか?なんだか、インフルエンザと風邪を混同して、ずいぶん軽く見ているようですけど。
  13. 農薬編もそうですけど、この漫画の原作者、いわゆるオーガニックビリーバーですか?治療法として、自然治癒”だけ”とりあげたり、前回ではさりげなく、漢方を自然治癒以上に持ち上げていたり。

 このマンガは、家庭内の通常の風邪治療だけですまない患者を、殺す気ですか?
 とにかく、風邪やインフルエンザ、その他の病気にかかったら、漫画なんかは真に受けず、医者にちゃんと相談しましょう(もちろん、ヤブ医者には要注意ですが)。

基本的な参考資料として適当であろうリンク集
インフルエンザ - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AB%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B6
国立感染症研究所感染症情報センター・インフルエンザ (http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/index.html)
厚生労働省インフルエンザ対策キャンペーンホームページ (http://influenza-mhlw.sfc.wide.ad.jp/)
インフルエンザ総合対策(H.15) (http://www.med.or.jp/influenza/) 日本医師会
インフルエンザウィルス情報 (http://www.tokyo-eiken.go.jp/IDSC/influenz/) 東京都感染症情報センター
インフルエンザ (http://idsc.nih.go.jp/kansen/k01_g3/k01_44.html)IDWR: 感染症の話
インフルエンザの総説 (http://idsc.nih.go.jp/others/inf-soron.html) 感染症情報センター センター長 岡部信彦

2005/1/24追加

 この話題を続ける気はあまりなかったのですが、この文章で直接的に説明していない、近藤誠氏とクニミツの、贔屓目に見ても大変偏っている、下手をすれば意図的に嘘をついている可能性高い部分について、騙されている方が多数おられるようですので、後々検索などでこられた方のために、書き残しておきます。
 クニミツの内容による刷り込みから脱して、検索サイトなどで、一次、二次資料をご自分で探して、真偽を確かめる事をお奨めします。

  • インフルエンザ脳症は解熱剤が原因で、国、医師、製薬関係者はそれを隠蔽しているという主張の誤り。上記の文章でも触れていますが、解熱剤を使っていなくてもインフルエンザ脳症になっているケースも多いのです。ですから、国や医師による、ほとんどの説の場合、解熱剤を使った場合、使わなかった場合の両方の症例を検討した上で、「インフルエンザ脳症に”かかった後”に解熱剤を使うと”症状が重症化”する可能性が高い」という事は認め、その旨、注意も出しています。解熱剤に関係なく発症、重症化しているケース(全体の五分の一)も多いので、妥当な結論でしょう。

 一方、近藤医師は、解熱剤と無関係にインフルエンザ脳症になったケースには触れず、「インフルエンザ脳症の”発症原因”は解熱剤だ」「”発症原因”は解熱剤と明白なのに、国、医師、製薬関係者などは、それを隠蔽している」と、国、医師、製薬関係者などを攻撃しています。
 おかしな事をいっているのはどちらでしょうか。私には、近藤氏の方が問題だと思えます。

 なお、近藤医師の主張のおかしな点は、こちらでも論じられています。
カレーとご飯の神隠し:【漫画】 「クニミツの政」薬害問題の続き―不思議理論の検証―
http://blog.livedoor.jp/f_117/archives/12771040.html

  • インフルエンザワクチンに効果はなく、日本国内でワクチン摂取が推奨されているのは、製薬会社の儲けるための陰謀という主張において、その説に不利な多くの事実が、隠されているという問題。

 近藤医師とクニミツの主張にあたっては、以下の事実について、言及していません。
 これも上記の文章で軽く説明していますが、欧米やWHO、ユニセフなどが、インフルエンザワクチンを、症状が重症化しがちな高齢者を中心に日本よりずっと積極的に摂取をおこなっている事実。高齢者に対しては、アメリカで60%、ヨーロッパ各国で30〜80%、日本では1%未満のワクチン摂取率。有効性を示すデータも揃っています。具体的には、高齢者の45%の発病を阻止、入院・肺炎・死亡などの重症化を防ぐ効果が50〜80%とされています。絶対視はできなくても、少なくとも、クニミツ作中で出されていた不明確なデータ一例よりは、遥かに信頼性が高いです(2005/2/11追記:ワクチン不要論の定番、通称”前橋レポート”がありますが、その調査方法や内容などに、いろいろと問題が指摘されている点 http://www.kansensho.or.jp/journal/full/200201/076010009j.pdf 、これを持ち上げる方はどういうわけか、他の報告はやたら貶めて前橋レポートのみを持ち上げ、科学的に検証するのにいささか冷静さを欠いている点など、留意しておいた方がよいでしょう)。
 欧米各国や、WHO、ユニセフなども、製作会社の儲けのための陰謀を、世界的に行っていると、クニミツと近藤氏は主張されるつもりでしょうか。
 さらに、インフルエンザワクチンが効きにくい具体的な理由についても、近藤医師やクニミツは触れてないまま、「インフルエンザワクチンは全く効かない」という決め付けをしています。
 具体的な効き難い理由は、インフルエンザウィルスが抗体のでき難い喉に感染する事から、ワクチンの効果が効きにくいこと。しばしばタイプが変わるために、ワクチンの当たり外れがある事(2005/2/11追記:近年は予想精度が上がり、ほぼ的中しているとの事。http://www.rd.mmtr.or.jp/~sumihosp/kaze/kazeinfluenza.htm 他)。しかし、発症や重症化の可能性を”減らす”効果は確認されています。これが、ワクチン摂取が推奨される理由(特に自前の免疫が弱い幼児や高齢者に)。しかし一般には「ワクチン=感染と発病を完全に阻止する物」というイメージがあり、100%阻止できない事から、「インフルエンザワクチンは効かない」という錯覚が生まれているのです。
 どうも、クニミツと近藤氏が、ワクチンが効きにくい理由を具体的に挙げないのは、「効果ゼロ」という自説の印象付けに不利になるからと、勘ぐりたくなります。