我が名はネロ
安彦御大による古代ローマのネロ帝を題材にした物語。
ネロといえば、一般的にはキリスト教を弾圧したりした暴君。ある程度歴史を知っていると不相応な地位と責任を押し付けられた気の毒な青年。この物語は後者の見かたで、ネロともう一人ゲルマニア出身の青年レムスを主人公に立てて描かれている。
しかしこの物語の優れているところは、そうした人間的弱さを単にネロとローマ人のみで描いているのでは無く、ペテロなどのキリスト教徒でも描いている。そしてそうしたものたちを見てきたレムス。レムスは、どこかさめていたり、ネロへ友誼を感じたりしながらも、それを自己否定いするよう復讐という目的を自分に言い聞かせながらも、そうした事を見てきて、最後にはキリスト教徒以上キリスト教徒的な達観と哀れみの境地、あるいは諦めとも激情とも取れる複雑な感情と行動に至る。
なお歴史上の事のフォローも、ストーリー展開とディティールともに一級。
余談。
この物語に登場人物たちは、いずれも余裕が無く追い詰められた者たちばかりですが、人格的に相当安定していたであろうヴェスパシアヌス*1が、わずかに登場したのみならず、もう少し本筋にからんでいたらどういう扱いになっていたでしょうか。いや、物語の趣旨的には不適当でしょうけど。
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