DNAはどこまで人の運命を決めるか

 読了。
 人間の能力、行動、その他諸々を、DNAがどの程度まで決定付ける要素になりうるかについて、様々な研究について述べた本。
 もちろん、種デスのアレに、いいかげん考えたのが丸出しな代物でも、きっちりツッコミを入れるときのための予習。
 この本の内容は、きっちりとした科学的態度をとっているため、安易に表題の問題を断定/否定せず、慎重に様々な研究成果と、そこから現段階で判断できる何通りかの可能性を、丁寧に述べています。
 その中で興味深い点をいくつか。

  • 表題の内容のようなことについては、分子生物学が「細部を調べれば全体がわかる」的な方針で筆頭だが、それに対し、進化論とカオス理論が、やや対立的な存在である事。進化論は世代を重ねるごとに遺伝子が変化するという考えであり、カオス理論は細部をどんなに調べても、全体の正確な予測は不可能であるという立場。
  • 特定の民族には遺伝病である鎌状赤血球貧血の割合が多いが、一方で、その因子は、その民族の暮らす土地の風土病であるマラリアに強い抵抗力を持っている。これに限らず、不利な特性が、有利な特性と表裏一体である事が、しばしばある。
  • 別別に育った一卵性双生児を調べれば、遺伝子の、性格や嗜好などへの影響がわかりそうに思え、事実、似る率は高いが、それがどの程度まで遺伝子の影響による物かを考えると、こうした調査に立候補する双子は普段から連絡をとりあっている事が多く、また、同じ国で同じ文化的背景で育っているため、環境による後天性の割合を判断する事は難しい。
  • 戦前、優生学が流行した時代の、トンデモ理論や、もっと深刻な問題の数々。最悪の例はナチスだが、アメリカでも、ゲーム脳並みの珍理論があって、ゲーム脳のごとく盲信されていた。チャールズ・ダベェンポートは、海軍士官になる能力には二つの遺伝特性が関連し、女性の海軍士官が少ないのは、この特性が男性固有の物であると論じていたが......そもそも海軍が女性をほとんど採用していないという、ごく基本的な事実を失念している。
  • 知能テストは、その基準を設定する側の、文化的変更をどうしても含む。知能の定義を突きつめて考えるのは、非常に大変である。
  • 知能の子や孫への引継ぎは、遺伝と環境の双方に密接な関係がある。例えば、結婚やその他では、知能の水準や嗜好、傾向などが似た者同士が集まりがちになり、当然、子供にも、遺伝子は引き継がれるが、同時に、知能などを育み環境も、親などに左右される事になる。

DNAはどこまで人の運命を決めるか

DNAはどこまで人の運命を決めるか

参考
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20050616