機動戦士Ζガンダム 第11話 大気圏突入

カミーユとファ

 久々の再会でありながら、置かれた立場やそれまでの経緯から、どうにも上手くいかない二人。主にカミーユが原因ですが、ファも売り言葉に買い言葉的に激昂して「私だって子供なのよ!」といってしまう。それが、後半の、ブリッジでただ見守ることしか出来ない、物理的な距離と心理的な距離による、もどかしさにつながる。

ブライト艦長

 作戦前にいきなり艦長交代なのは、無理があります。軍隊でなく、スポーツの監督に当てはめて考えても、容易にわかる事、このあたり、ブライトとはヘンケン艦長のオブザーバーという事にして、降下終了後に交代の話が出てくるという事でもよかったのでは。
 とはいえ、シャアに、妻のミライの保護を頼む際の、公人としての立場と、私人としての感情のジレンマは絶妙。

パプティマス・シロッコ

 顔見せ程度だった前回に続き、本格的に登場。
 あくまで軍組織内部の人間とて描かれてきた、これまでの連邦軍ティターンズのキャラクターと違い、独立した権限をもつ木星資源船団の隊長で、さらに、彼自身の開発によるモビルアーマーメッサーラーを持っているという、特殊な立場を見せ付けている。本放送当時も、雑誌などで、単なるパイロットではない、新しい強力な敵として紹介されていました。
 で、自分の実力を誇示して見せるために、ハリオ隊は不要と言い切る。たしかにメッサーラのスピードを考えると、通常のMSは邪魔でしょうし、なによりもハリオ隊のMSはよりによってMSVの陸戦用MSザクキャノン。そりゃまあ、役立たずと言いたくもなるでしょう。ザクキャノンは、前回に続くMSVの客演ですが、偵察機として活躍した偵察型ザクと違って、ぞんざいな扱い。

バリュートウェーブライダー

 前作の耐熱フィルムや耐熱フィールドに対し、科学/SF設定の強化をアピールする、大気圏突入装備。
 どちらも、現実に考案されている方式。バリュートはガスを満たしたバルーンで断熱する方式。一方、ウェーブライダー(フライングアーマー)は、平面の底面の耐熱タイルや融除材で熱や衝撃に耐える、現実の突入カプセルやスペースシャトルなどに一見似ていますが別方式。真正面からみると、微妙な逆V字型になっていて下面に大気の衝撃波を集めるようになっており、その衝撃波を防護シールドに出来る上に、さらに揚力に利用して突入しながら方向修正も出来るという物。

メッサーラ

 大気圏突入前のエゥーゴを狙って、シロッコメッサーラが単独で強襲。
 このメッサーラは、今のガンダム物では珍しくなくなったものの、当時としては初めての試みだった「変形」を盛り込んだ『Zガンダム』における、初の可変モビルスーツメッサーラのカテゴライズは可変モビルアーマー)。
 メッサーラ自体は、重力の強力な木星圏での活動のために、強力な推進ユニットを持っており、さらに、それを後方一方向に集中させるための変形機構を盛り込んで、シロッコ木星船団の設備で作り上げた、一品物の機体。強力なメガ粒子砲等、武装が充実しているのは、木星航路でのテロや海賊対策でしょうか。アステロイドベルトにはジオンの残党アクシズがいるわけですし。
 変形自体は、胴体を前後で開き、股間部を機首にして、脚はのばして開いた胴体の真下に密着させるという、VF-1バルキリー方式。それほど複雑な変形ではないですが、各部のポジションが大きく変わるので、最近の種デスとかの背中にしょっているものを広げるて、手足を少し曲げるだけの、変形というにもおこがましい代物より、はるかに変形らしい変形。

 作中での実際の戦闘では、メッサーラシロッコの強力さに加え、エウーゴは、突入のための行動を継続しつづけねばならない上に、突入装備で動きが鈍っているというハンデまで背負っていて、一機のメッサーラに圧倒される。一方、メッサーラは、エウーゴの戦力を削り、突入の邪魔をすればいいだけなので、一機にも関わらず相当有利。
 そして、モビルアーマー形態で圧倒した上に、モビルスーツへの「変形」まで披露して、その強力さを存分に見せつける。
 このあたりの演出、氷川竜介氏が分析していた事ですが、「変形」だけなら、メッサーラのデザインには、実際の乗り物などにそっくりな形になるトランスフォーマーバルキリーほど、インパクトは無い。しかし、「木星帰りの謎の凄い男が」「圧倒的な戦闘能力を見せつける」というのと組み合わせる事によって、その相乗効果によって、印象を強くしている。サイズ表現も、かなり大柄に設定されている設定身長(一般的なMSが18〜20mなのに対し、メッサーラは頭長高23m、背部の推進ユニットを含めると30.3m)より、さら大柄にディフォルメされて、その強力さを印象付けている。

 結局、シロッコは、ジェリドたちが到着した時点で、頃合を見て余裕の撤退。しかし、このしばらく後の、シロッコ再登場後では、メッサーラは部下に貸し与えられるばかりで、あまり強さも活躍もアピールしないのが残念。今回の戦闘は、どちらかといえば、この少し後の地上編で次々登場する、可変モビルアーマーの先鋒としての役割の方が大きかったです。

 しかし、メッサーラ相手の矢面に立っていたエマ。いつもは優等生的に判断力に優れているのに、今回は、ジャブロー降下に拘泥していて、いささか変に見えます。

チキンレース

 カミーユと、ジェリド・カクリコンコンビによる、大気圏突入直前のギリギリの状況での、戦闘。
 初代ガンダムの大気圏突入と似た状況ですが、違うのは、ジェリド・カクリコン側のマラサイは動きを大きく制限されるバリュートなのに対し、カミーユのmk2は動きの自由度の高いウェーブライダー(フライングアーマー)という点。
 結果として、カミーユよりも、ジェリド・カクリコンコンビの方に視点が向けられるという捻った状況。結局、位置関係の運の悪さから、オートでバリュードが開いてしまったカクリコンが、カミーユに一方的にやられてしまう。このあたり、ここ数話でカクリコンの存在がアピールされいたために、視聴者としても、カクリコンの必死さや戦死による喪失感、ジェリドの無念さに共感できる。
 一方、優位な立場にあるカミーユも、自分の優位さに嫌悪感を感じてしまう。こういう、優位な立場にたちすぎた事による、自己嫌悪やジレンマは、『Vガンダム』のウッソ少年などにも見られました。