名探偵ポワロとマープル エンドハウス怪事件 その3

 以前の『ABC』と違って、原作の基本的な部分は要領よくまとめ、話の起伏もありますし、ドラマ性などもちゃんと描かれています。
 しかし根本的に、長編に最適化された原作のストーリーとトリックを、大幅に切り詰めているため、やはり原作と比べてずいぶん味気ない代物になっています。
 特に、一番原作の面白さを損ねているのは、容疑者の数。
 原作では10人の容疑者ほとんどが怪しく、実際に、事件と関係は無いものの、独自の陰謀や秘密を持っている者も多かったのです。その脇道の謎を解決しながら、最後に事件の本筋と真犯人を暴くのが、原作の面白さ。そのため、途中でポワロが、ヘイスティングスや読者向けに、各容疑者の名前と疑問点をAからJまでリストアップして、そうしたストーリーをわかりやすくする手法もとっています。なお、解決編のタイトルは「K」。しかしこの方法、テキストベースの小説やビジュアルのベル向けで、映像作品では使いづらいんですな。
 しかし、このアニメ版での容疑者はフレデリカ・ライスだけ。尺が短い上に、小説ならではの「読み返し」をしにくいアニメ版では11人は無理でしょうけど、せめてどうにかして、後二人ぐらいは、同程度に怪しく見せられなかったものかと。

 そして、これまた尺の都合上、真犯人が正体を隠すための、ポワロや読者への偽装の数々も大幅に減らされていて、ゆっくり騙される暇も無く、忙しく、決定的手がかりや真相が出てしまい、やはり原作と比べてずいぶん味気ないです。原作の方は、クリスティの著名作の中でも、真犯人を予想しやすい部類と言われているのですが、それでも、念入りな偽装には感心させられるものでしたのに。

 あと、ポワロがニックの演技力を誉めるシーンを見て思った事。「それはド素人声優を押し付けてきたNKHへの嫌味ですか?」