NHKスペシャル ローマ帝国 第二集 一万人が残した落書き 〜ポンペイ・帝国繁栄の光と影〜

 「アウグストゥスが帝国を築いてから80年」と、共和政時代やユリウス・カエサルをすっ飛ばして、ローマ帝国が、中国とかの王朝交代のごとく、いきなりアウグストゥスに建国されたかのような、相変わらずヘンテコな物言い。
 帝国内の民衆の生活安定のための政策や、社会状況の変化の原因などを「パンとサーカスだけのように言って、他の政策や経済状況について触れないのも、変。
 あと、「パン」について、パンを配っている絵を出して(これ、配給の絵では無く、パン屋の絵か、もしくは後代の絵では?)パンを配給していたと述べていましたが......間違いですってば。配給していたのは「小麦」。「パン」は風刺として象徴的に言われていただけ。こんな基本的な事を間違えてどうするのですか?
 さらに、配給だけで民衆全てが餓えなくなったかのように語っていましたが、これも変。配給していたのは、あくまで失業者等の貧しい人たちに対しての、餓えない程度の最低限の量で、民衆全てが配給に頼っていたわけではありません。当然の事ながら、配給以外にも、生活を安定させるための様々な政治をして、民衆の生活は安定していたんですってば。

 間違ってはいないものの、有力者の寄付先が「パンとサーカスだけのように語っていて、その他の公共建造物や事業への寄付の事には何も言及しないと言うのも、非常に恣意的。

 内容自体も、「ローマ帝国は贅沢と退廃で堕落した」「退廃の末ポンペイは滅んだ」という、物凄くありがちかつ、まともな考察でなく道徳的感情論だけを優先させた話で、NHKスペシャルに期待するクオリティにまるで及ばない薄っぺら。
 先週危惧したとおり、民放のポンペイ特集の方が、遥かに出来がよかったです。
 結局、この番組の根本的におかしなところは、製作者側がテーマ(それは必ずしも、ちゃんとした史学的観点ではない)を仮託したい特定要素だけを強調し、他の要素を示威的に取り出すだけで、「全体を上手く要約する」というう姿勢を、最初から放棄している事。

 こうなると、「貧富の差が拡大した」「治安が悪化した」というのを、モザイクや落書きから読み取ると言うのも、番組製作者があらかじめ決めたストーリーに恣意的に引用していないか(つまり、実際には、以前から普通にあった物ではないか)と疑いたくなります。なにしろNHK、『花に追われた恐竜(*)』という、インタビューや学説などの部分分だけを取り出して、「花をつける植物が恐竜絶滅の原因になった」という誰も言っていない学説をでっち上げて番組を作った前例もありますし。

*:この番組の内容を簡単に紹介すると以下のとおり。
 ジュラ紀は世界中が原始的な裸子植物の森で覆われて竜脚類達はこれを食料としていた。ところが白亜紀中期、約1億1000万年に花を咲かせる被子植物が爆発的に増大し、原始的な裸子植物を圧倒してしまう。その結果1億3000万年前竜脚類は花に追われるようにして絶滅してしまった。その後出現したカモノハシ竜も裸子植物が北に退いていったため北極圏に移動せざるを得ず、新しい環境に適応した角竜たちが登場したが彼らも隕石の衝突で絶滅した。

 ええと、実際の学説との比較とでも変なところだらけですが、番組内容を見るだけでも、被子植物の繁栄の前に竜脚類が絶滅している事になるという、子供の間違いのような矛盾があるのですけど。念のためにもっとわかりやすく書きましょう。「11年前の高速道路開通のために、13年前ヤマネコが絶滅した」という記述があったら、どう思います?
 しかし、これ、俗説として世間一般に広がっています。トホホ。