グラディエイター

 ローマ物続きのついでに、こちらの感想も。

 まず、誉めどころを書いておきます。
 父や主人公にコンプレックスを感じつづけているコモドゥス帝の、神経質さや哀れさを感じさせる存在感は非常によかったです。
 いいかげんなところもいろいろありますが、劇場の大スクリーンで、ローマ帝国の風景や剣闘試合を見れタのもよかったです。まあ、大スクリーンで見ると、コロッセウムとかはやはり、CGゆえの質感の物足りなさを感じてしまいましたが。

 しかし問題は、まずストーリー展開。特に終盤、マキシマスらの反乱計画を取り押さえ、いつでも処刑できる状態になったコモドゥスが、マキシマスの挑発を受けて唐突に一騎打ちを始めて、案の定死んでしまう。たしかに史書コモドゥスは頻繁に自ら健闘試合に出て常勝するほどの強さだったので、それを考えるとありうるでしょうが、この映画のコモドゥスはそのような行動や描写はまるでない。また、映画中ではマキシマスにコンプレックスは感じていたものの、それが、一騎打ちに走るような方向性のものとはとても思えない。
 いかにも、主人公を勝たせる手段を思いつかなくなったから、敵から唐突に自滅的な事をしてくれたという、強引な脚本そのもの。

 もう一つの問題は、歴史的背景をあまり生かしていない。
 まず、ストーリー内容で史書に即しているのは冒頭のアウレリアス帝の後継ぎ問題だけで、後は完全にオリジナル展開。登場人物単位で見ても、コモドゥスは肝心な「自らも剣闘試合に度々出た」という部分が無いですし、ゴモドゥスの姉も史書から名前を借りただけの事実上のオリジナルキャラ。他のコモドゥス時代の重要人物は皆無。
 他にも、ローマの元老院制を現代の選挙による議会制民主主義と同一視していたり(元老院に選挙はない。一種のエリート集団会議)、ラストでコモドゥスの姉が国の再建をしょって立つように描かれていたり(実際には、この後政治的混乱や内乱が続き、ローマの政治や反映は下り坂になる。だいいち彼女は、コモドゥス時代の早くに謀反を起こして死んでいる上に、コモドゥスが暗君になった原因も彼女の起こした事件である疑いが強い)、政治情勢なども無茶苦茶。
 この映画ははっきり言って、通俗的ローマ帝国のイメージだけで成立していて、コモドゥス帝の時代を舞台にする必然性がまるでない。これなら、カリグラでも、ネロでも、ドミティアヌスでも(彼なら偉大な父や兄の存在、兄帝の急死など、この映画のストーリーに問題なく当てはまる)、なんなら完全に創作上の人物でも、一向に構わない。
 こんなものでも、アメリカ”先住民”への迫害と、日本の近代化の際の”旧支配者階級”である武士階級の没落という、全然違うものを同一視していた『ラストサムライ』の無茶苦茶さと比べたら、まだマシなのですが。

 もっともこの映画のヒットの要因の一つは、既存のローマもの映画にありがちな、複雑な政争などを切り捨て、見やすくしたことによるそうですが。

評価:60点