今掛版エリア88

 2004年製作アニメ版『エリア88』の一話から四話を鑑賞。
 ......怖いもの見たさで。「類似ジャンルの先行駄作、アニメ版雪風すら下回る」「ガンダムSEEDすら下回る」という評判はすでに聞いていまして。
 で、見た感想は、「悪評ごもっとも。アニメ版雪風ガンダムSEEDといいとこ勝負。着目点によっては下回りもしている」

第一話
 始まっていきなり、カメラマン新庄が見る写真に写っている戦闘機のパネルラインが、まるで極太マジックで書かれたかのような太さで、呆れる。最初のシーンから、戦闘機作画に対する期待を踏みにじってどうするの?

 フルCGによる戦闘機は、とくかく安っぽい。冒頭でも見せられた極太パネルライン。輪郭線自体も妙に太く安っぽさを倍増。
 着地、離陸などの際の動きは、まるで1/144〜1/48ぐらいの小さく軽いプラモデルをピアノ線で釣っているだけかのような動きや重みの軽さ。10数メートル以上のサイズでいくつものパーツや可動部分で成り立っているゆえの、各部の力のかかり方の違いなどは、まるで感じさせない。
 手前から奥に飛んでいくシーンなどは、いかにも単純に縮小/拡大だけしているのが丸わかり(しかも、輪郭線やパネルラインの太さは変化しない)で、遠近感、空気感なども皆無。
 動翼などもまるで動かない。

 まるで、安っぽいミニチュア特撮のよう。


 まあ、CGに関しては「製作環境が厳しい」「省力化の手段」として諦める事にしましょう。しかし、冒頭の写真に映っている戦闘機ぐらい、手書きでまともに書いてくれよ。


 風間真の声優が子安武人氏になっていたのは、見る前はそれほど問題とは思わなかったのですが、実際に見るととんでもない違和感。書きあらためられたキャラクターデザインとの相乗効果で、妙に逞しく頼りがいのありそうになっていて、原作のクールを装っていて、繊細さ、危うさを内在しているというキャラクター性が台無し。
 これだと、敵機を迎え撃つ時に「バカが来る!」と叫んだり、出撃時には「小生は、絶好調であーる!」と叫んだり、アフターバーナーを吹かす時に「コンボイジェット!」と叫んだり、撃墜されても鼻毛真拳でサバイバルしたりしそうだ。嫌な風間真だ。
 子安氏を使うなら、サキ役の方が良かったのでは。

 話の方。
 主人公がカメラマン新庄というオリジナルキャラになっているのは、第一話時点ではそれほど問題ではないです。原作第一話のミッキーの視点が新庄になったと考えれば。もっとも、第二話以降、原作主人公風間真を原作のストーリーに沿って登場させつつ、さらにこの新庄が追加されているせいで、どんどん無茶苦茶な代物にされているのですが。

第二話
 原作の名エピソード「死神ボリス」の話(5/20訂正:原作に死神云々は無かったです)......のはずが、このアニメ版はことごとく、ぶち壊し。
 原作では、同じ死と隣り合わせの環境にいる風間とボリスの交流として描かれているのに、このアニメ版では、安全なところにいてボリスからかなり離れた立場からにいる新庄の視点になっているのが元凶。なおかつ、風間とボリスの交流も、新庄の視点で間接的にしか描かれていないので、印象が希薄に。
 あまつさえ、話を聞き出すためとはいえ、新庄はボリスを侮辱するような事までしているにいたっては、「なぜ、こんなパパラッチ野郎の視点で、この話を見なければならない」と、腹立たしくさえありました。

第三話
 新庄が風間の機体に同乗するなどして取材する話。あと、風間の過去がほのめかされる話。
 ただ、新庄というキャラクターに魅力を感じないどころか、邪魔者にしか見えないため、まるで入れこめない。

第四話
 風間が撃墜され、砂嵐の砂漠の中で生死の境をさまよう破目になり、新庄らが救出に向かう話。
 ここで、風間の(原作の知識がある人には百も承知の)事情が明かされる。
 しかし、原作では風間が撃墜される話は二度あり、どちらもよくできた話なのに、このアニメ版ではただ単に「砂漠をさまよいながら回想で事情を視聴者に説明」「救出されてめでたしめでたし」としただけの、凡庸な代物。

 トータルでは1クール期間である今回と同じだけの尺数の旧作アニメ版のエピソード密度を考えると、無駄にだらだらしたエピソード。三話と四話は1エピソードでまとめられる。

 元々原作では「主役」としてストーリー内の描写の比重が多く裂かれて、その背景事情がらみの事も多く描かれている風間のそれらのことを、そのまま出そうとしつつ、なおかつ別に新庄というキャラクター的特長や威力に乏しいキャラクターを主役に添えてしまっているせいで、「大してキャラクター的魅力のない新庄が出張っているせいで、せっかくの風間の魅力的な背景事情とドラマが脇に追いやられている。さらにエリア88の他の魅力的なメンバーのドラマはさらに脇い追いやられる」というマイナス効果は絶大なのに、プラス効果はまるでない。
 たとえば、新庄にエリア88のメンバーに負けないだけの個性や自己主張、命知らずぶりを最初から強く発揮させ、風間とどんどんぶつかり合わせるような話にしていれば、新庄というオリジナル主人公にも価値はあったのでしょうけど。実際には、新庄は、主人公の座を風間らに代わって勤めるには、あまりにもキャラクターもドラマも薄すぎる。