蜘蛛巣城

 黒澤明監督による『マクベス』の翻案作。私が『マクベス』を最初に見たのは、台本なども含めて、『蜘蛛巣城』がはじめて。
 オーソン・ウェルズ版『マクベス』と比較するために再観賞。
 買い物で例えれば、ウェルズ演じるマクベスが「本人の自発的な買う気や持ちつづける気は十分だが、リスクへの不安も同じだけ大きい葛藤」なのに対し、三船演じる鷲津は「本人の自発的な買う気はさほどなかったが、悪徳勧誘員に言葉巧みに乗せられて欲を拡大させられて、リスクの大きな買い物を続けてしまったたゆえの苦しみ」という物。
 「森が動かない限りマクベス/鷲津は負けない」という予言も、ウェルズ版マクベスは自分の罪や破滅を強く自覚しながら、同じだけ自分を支える何かが欲しいという強い気持ちゆえに信じたという二律背反な心理を表す扱い。それゆえに森が動いた後もウェルズ版マクベスは、言葉の上では予言されたものでないと自分は殺せないと叫びつつ、内実では死を覚悟して勇ましく戦う。それに対し三船鷲津は、予言を素直に残された希望と信じ込んで、森が動いた後はひたすら絶望する。
 同じ魔女に象徴される運命の奴隷という扱いでも、ウェルズ版マクベスはあくまでも自己責任の上の結末なのに対し、鷲津の方は悪魔に弄ばれた被害者という観が強い。
 個人的には、ウェルズ版マクベスのドラマの方が、よりダイナミックと思います。
 とはいえ、森の存在感は『蜘蛛巣城』の方が上(ウェルズ版は岩の城の方が重視されている)。あと、主人公の最後も『蜘蛛巣城』の方が、有名になるもの当然と思えるほど見事。

蜘蛛巣城 [DVD]

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