キング・アーサー

 アーサー王伝説の原型になった、ローマ帝国ブリテン島撤退後、襲来してくるサクソン人からブリトン人を守ったという将軍アーサーについての、曖昧な伝承を、ローマ撤退時にブリトン人を守るために残ったローマ帝国の将軍(母方はブリトン人)というように解釈して、作り上げた話。
 これが、アーサー王伝説とかと、特に関係のない、「辺境の国に駐留していた、大国の駐留軍やその傭兵が、本国の都合で、危機に陥った辺境国を見捨てて撤退することとなったが、見捨てられずに、その国に残って働く」という話なら、まあ、悪くない話でした。

 しかし、これが「アーサー王」が題材という事を考えると、問題だらけ。
 そもそもイギリスの英雄である「アーサー王と円卓の騎士」が、アーサーがかろうじて母方に現地ブリトン人の血を引いているだけで、後は全て外国人ばかりというのは、根本的に間違っていませんか?せめて、騎士の半数ぐらいは、現地のブリトン人系にしてもよさそうなものなのに、これでは、ブリトン人が外国人に守ってもらう立場に貶められている(終盤、同盟を結んで戦うが、指導者のマー林と、ヒロインのグウィネヴィア以外、固有の名前や存在感のいるブリトン人戦士はいない)。

 それと、登場人物と諸要素に、伝説の方の名前をあれこれ持ってきているのに、その意味がないほど別物なのも問題。とりあえず、「父から受け継いだ剣エクスカリバー」と「グウィネヴィアに横恋慕するランスロット」はそれなりに(本当に、それなり程度)盛り込んでいるものの、あとは、適当感あふれる代物。
 そもそも、一般的に知られるアーサー王伝説は15世紀に成立したもので、原型となったブリトン人とサクソン人の戦いの時代から千年の隔たりがあり、ほとんどがその間に追加されていった物。「歴史的事実を尊重したアーサー王」に、何百年も後に追加されていった円卓の騎士等の存在を持ち込むのは簡単ではない。それでも小説『アヴァロンの霧』のように上手くやっている作品もあるのに、この映画のやり方は、杜撰極まりない。
 大体、歴史的事実としてありそうなアーサー王がテーマなら、どうして後年、アーサー王伝説とは別の伝説が、アーサー王伝説の興隆によって吸収されたのがルーツのトリスタンまで登場させているのやら。テーマからすれば、トリスタンは外すべき。 

 とどめに、見ていて萎えたのが、事あるごとに、あまりにも現代的でアメリカ人好みな自由と平等の感覚をふりかざすアーサー。現代人が見る話である以上、現代的価値観を全く持ち込んではいけないというわけでもありませんが、それにしても、この映画のアーサー王の価値観は、あまりにも現代的。このあたりにも、この映画の杜撰さが見て取れます。

評価:45点

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