名探偵ポワロとマープル 『エジプト墳墓の謎』について

 以前、『名探偵ポワロとマープル』でもアニメ化された、『エジプト墳墓の謎』。
 これの原作をクリスティ文庫の『ポアロ登場』で読んだときから、どうもおかしな内容だと思っていました。

 最新の訳であるクリスティ文庫収録版では、前半で、富豪の甥が、「僕のような”死の病”にかかったものは死んだほうがいい」と遺言を残して死んでいるのですが、解決編で明かされる真相も含めて、「それなら、さっさと自殺するよりも、藁にもすがるつもりで医者を頼る方が普通の行動では。不条理だ」としか思えませんでした。

 ところがこれ、毎度の差別語云々で元から書き換えられていることを、最近知りました。元々の記述は”癩病ハンセン病)”。
 たしかにハンセン病なら、外見からして無残な病状、舞台となる1930年ごろ当時には治療法がない事、社会的偏見など、自殺するほど悲観する病気です。クリスティ文庫版では病気と思った理由が「皮膚病」となっていて、読んだときは「どうして皮膚病で死病と判断するんだ?」と疑問に思いましたが、ハンセン病なら納得。
 しかし、クリスティ文庫版の”死の病”の部分を”癩病”としても、特に差別的な部分は無いのですが。自殺したくなるほど酷い病気として扱われていたという事自体は、事実なわけですから。無駄な言葉狩りで、話の意味が不明瞭になっているだけです。

 アニメ版では、更なる改悪。
 原作では「別に病気でもないのに、どうして自分を癩病/死病呼ばわりして自殺したんだ」という謎が冒頭で提示されているのが、アニメ版では、自殺した理由を述べた遺言が解決編になって始めて提示されるという、意味不明な改変。病気もクリスティ文庫版の漠然とした”死の病”で、そう判断した理由も「旅の疲れ」という、さらに説得力の無い物に。


 まあ、癩病問題は伝言ゲーム式におかしくなっていった特に酷い例ですが、アニメ版では他にも『申し分のないメイド』で原作では症状から真相を解き明かす手がかりになっていた「心気症」が単なる「病気」、『ABC殺人事件』では犯人をミスリードするための「癲癇」が「頭痛」にされているうえにストーリーに全く絡まないなど、とにかく病気関連は曖昧にされています。


 昨日の素人声優問題もそうですが、こうした病気や、イギリス独特の言い回し(『風変わりな遺言』」や風習(『金塊事件』)等、ファミリー向けアニメにするには引っかかる問題が多いなど、このアニメ、やはり企画の根本から間違っていませんか。